※ ひらめ=ヤマメの仲間のアマゴのこと。大きくなって体の模様が消えたものをシラメと呼ぶ地方があるが、このシラメが転化したものではないかと思われる。

※ のぼし=茅(ちがや)の穂の茎から出る前のもの。やわらかくて、おいいしい。

“のぼし”のあとに採りごろになるノビル。ネギ類特有の香りと、ヌルッとした食感。古代から食べられていた野草で、 胃腸を丈夫にし、体を温める効果があると言われている。

「今日から この鍬は おまえのだよ」
そういわれて 喜んでいいのか 悲しんでいいのか
じぶん専用の鍬をもらったということは
これからは 母と一緒に仕事をしろ ということだ。

いまは ひらめが 釣れる時期なのに
昨日 一日かけ みがいておいた 
ぼくだけの 三鍬(みつぐわ)をかつぎ
しぶしぶ 母のあとについて 山の畑に向かった。

だけど 山には山の 楽しみがあった。
畑を耕していると カラスの活け栗がでる。
「カラスはなあ 空の雲を見て 栗を活けるんだよ」
だから どこに埋めたのか わからなくなると 母はいった。

それから ぼくは 一生懸命 耕したので
仕事は あっというまに 終わった。
帰りに 母が 道ばたの 草の穂をぬいて くれた。
「ほら これを食うてみいのお」

白くて 仔猫の尻尾 みたいに ふわふわ だった。
「これはな のぼし いうて 山のチューインガムだ」
ほんのり甘くて いい香りがした。
でも すぐに味がしなくなったので 吐き出した。

大きくなって 町の学校へ行くようになれば
いつでもチューインガムなんか買えると 母はいった。
ぼくは 家に帰ったら 
さっそく 勉強をしようとおもった。
五月の想い出

茅(チガヤ)が正式名称らしいが、私たちは“のぼし”と呼んだ。
ふる川の 岸のあたりのあさ草に つばな浪よる 夏の夕風
                             (藤原為家)
しらじらと 茅花ほけ立つ草野原 夕日あかるく 風わたるなり
                              (古泉千樫)

三鍬は別名“備中鍬”とも呼ばれ、山田方谷が発明したといわれている。文政5年(1822)に出版された『農具便利論』にも載っている。方谷17歳のときの発明だとしたら、さすが備中聖人だ。

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