良い悪いは別にして・・・・
  むかし むかし そのむかし
ひろちゃんが嫁に行った。
世話役のおばさんに手をひかれ
少しうつむきかげんで
いつもの ひろちゃんじゃなかった。

昭和四十年代の結婚式は
嫁に行く前に部落の家を
一軒ずつまわって
別れの挨拶をしてから嫁いだ。

いま ひろちゃんは 六十八歳になる。
干し柿を見るたびに
ぼくは六十年近い
むかしの故郷を思い出す。

あちこちの部落で祭りがあって
よっぴいて神楽が行われ
ぼくたちは眠いのに
大黒さんの餅まきが始まるまで起きていた。

秋になるとよく山へ遊びに行った。
アケビがあったしガブ(やまぶどう)があったし
アサドリ(秋ぐみ)があったから
味噌むすびを持って行かなくても夕方まで山で遊んだ。

そろそろ高い山は真っ白な
化粧をするころだ。
あの嫁入りの日の
ひろちゃんのように………。
秋はおいしい季節

打ち出の小槌を持った大黒様(大国主命)が天上の国から人間界に下りようと幕の前で舞う。幕はいわゆる結界を象徴している。大黒さんが出るころは、いつも真夜中だった。ぼくたちは飛び起きて眠い目をこすりながら身を乗り出して見た。餅投げが始まるからだ。

花嫁が部落の家を一軒ずつまわることを村歩きと言った。その後を子どもたちが、ぞろぞろついて歩いた。最後にお菓子をもらえるからだっだ。これは育った部落でも嫁いだ部落でも行われた。秋の陽に輝いて、干し柿が美味しそうだった。
いちばん早く山のてっぺんが白くなるのは伯耆大山だった。中国地方でいちばん高い山だ。むかしは日本海を見ながらの稜線歩きが楽しめたがいまは崩壊が激しくたぶん歩けなくなっているのではないだろうか。

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