上品なカワラトンボ。戦争中に新橋から疎開してきていたお婆さん芸者のようだった。たしか妹なんか三味線を習っていたようだが、とうとう芸者にはなれなかった。

※べチ=こうしのこと。オスならコッテイ、メスならオナミといった。 

トノサマガエルが擬態をしていた。そんなことしたって、わからーい。

七たび水を浴びれば 風邪をひかないんだよ。
お婆さんにそういわれて
ぼくたちは ごぜん十時になるとすぐ
川に向かって 駆けて行った。

そこへお爺さんが 牛を引いてやって来た。
そういえば牛にも 水浴びをさせる日だ。
いやだな 牛は水浴びをさせると
いつも おしっこをやうんちを川にするから。

お爺さんは タデの葉をたばねて
牛の頭から顔 大きなお腹からお尻まで
たんねんに こすりながら
「いいべチがうまれるように」と唱えるのだった。

言葉が わかるはずはないのに
牛は目を細め 頭を小さく上下にふった。
そういえば 爺さんたちはみんな
牛の顔を覚えてるくらいだから 言葉が通じるのかも。

お爺さんたちが 帰っていくと
おしっこやうんちが流れるまで待って
ぼくたちは 淵に飛び込むのだった。
飛び込んだらもう向こう岸についた。

それでもぼくたちは 唇が紫になるまで
泳いでは上がって岩の上にはらばいになり
体があたたまると また泳ぐのだった。
気がついたら 河童の手みたいにシワシワになっていた。

どうして七回も泳ぐのか ず〜と知らなかったが
大きくなってから気がついた。
その日は月おくれの七夕だった。
な〜んだ 駄洒落かァと ぼくは思った。

とたんに ありがたみがなくなってしまった。
そのころ ぼくたちは大人の仲間入りをしていた。
 
あんなに大きかった川が、まさか縮んでしまったはずはないのに、小さくなっていた。川の水が豊栄養価したからか、葦が川をおおいつくしてしまった。

ぼくたちが子どもころの花火は、藁しべに鼻くそを丸めてくっつけたような、せん光花火と、シュパ、シュルシュルシュル、パンと弾ける流星だけだったような気がする。それでも楽しかった。

八月の想い出

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