何千、何万羽と群をなして夜の海峡を越えて行くアカエリヒレアシシギの鳴き声を主人公は下北半島で聞くのであった。これは井上靖の『海峡』に描かれた風景である。井上靖はナイター見物の際、照明にぶつかって死ぬこの鳥に心を奪われて下北半島まで出かけるのであった。鳥類図鑑などを見るとアカエリヒレアシシギは、南アメリカ大陸やアフリカ大陸などで越冬し、春になると北へ向かって旅をする旅鳥なのだそうだ。明石海峡では春と秋、渡りの光景が見られるというが、私はまだ見たことがない。
《由香里の眼に防寒具に身を固めた夫が下北半島の荒磯に立っている姿が浮かんで來た。その夫の姿はひどく孤濁であった。何ものをも寄せつけないものを持っていた》
《その夫の心のどこにも自分は居ないと、由香里は思った。その心のどこにもはいり込む餘地があろうとは思われなかった》
  引用したのは『海峡』の一節であるが、井上靖の初期のころの作品を私は好きだ。『猟銃』にしても『通夜の客』にしても、どこかに虚無が漂っている。
  さて、それはさておきヒヨドリがこんな表情を見せてくれるとは思わなかった。いかにも、いたずらっ子のようなイメージを抱いていたヒヨドリが一瞬、見せてくれた表情がうまくとらえられた。文頭に井上靖の『海峡』の一節を持ってきたのは、このいたずらっ子が、秋になると群をなして暖かい地を目指して旅をすると知ったからだ。明石海峡や関門海峡で渡りを見るとことができるという。
  いたずらっ子という言い方をしたが、平安時代には雛から飼うと主人をよく覚えて見分けることができるというので、貴族たちのあいだで盛んに飼われていたという。ただし、鳴き声が美しくないので、やがてウグイスやメジロ、ホオジロなどにとって代わられるのである。矢切辺りでは、冬になって食べ物がなくなると春キャベツの幼苗をついばむので、農家の人たちから嫌われている。とりわけ雪の日などはキャベツの苗などは、かっこうの餌になる。
  この鳥は主に日本でしか見られない鳥なので、外国人のバードウォッチャーには人気があるそうだ。日ごろ見慣れている私たちにはそうではないが………。これで農業害鳥なのである。

  渡りの前にヒヨドリたちは、それぞれの場所から集まってきて群をつくる。群れて餌をあさり、体力をつけて北国や山に帰って行く。
  本来は花の蜜などを好むが、花や野菜なの端境期にあたるこの時期は、キャベツの苗やブロッコリーの苗などむさぼるように食う。農家にとっては害鳥だ。
  飛び型は直線的でなく、ピヨーピヨーの声に合わせるかのように波形だ。 

トップへ戻る

いたずら者のヒヨドリはとっても利口

平安時代 貴族たちに愛されたヒヨドリはいまは農家の人たちの嫌われ者

【ヒヨドリの地方名】
スズメ目ヒヨドリ科の留鳥あるいは旅鳥。 全国的に多いのは「ヒヨ」とか「ハナスイ」

ヒーギ(千葉)
ヒヨス(神奈川)
ヒヨス(広島)
ヒヨウドリ(徳島)
ピース(福岡)
ヒヨンジュ(長崎)
ヒヨツバ(熊本)
ヒヨス(宮崎)
ヒューシ(沖縄)

奄美地方では「ヒュードイ」「ヒュウシ」「ヒウス」などとも

人の食べ残しを拾って食べる。貪欲だ。