三月の想い出
まだ夜もあけきらぬころ
台所から母の呼ぶ声が聞こえてきた。
「はよう起きててごをせにゃあ」
そういえば あしたは 
ぼたもちを搗く約束だった。

跳ね起き
ネルの寝巻きを脱ぎ捨てて
台所に行くと
炊きあがったばかりの
羽釜のふたをとったところだった。

「よう押さえとれえよ」
そういうと母は擂り粉木で
はじめはゆっくりと
まだ湯気の出る飯を搗きはじめた。
ぼくは一生懸命で羽釜の縁の鍔(つば)を押さえた。

鼻の穴の奥まで
餅の匂いがしてきた。
三十回も搗いただろうか
まだ飯粒が残っているのに
握り拳ほどにちぎって餡粉の中に投げ入れた。

羽釜押さえは
彼岸の朝のぼくの仕事だった。
それがいつの間にか 電気釜にとってかわり
ぼくの役目も終わった。 
ぼた餅を食うだけになった。

旧坂川河口に、ひとつがいのクイナが暮らしている(2010年3月18日撮影)。とても警戒心が強く、尾を上下に振りながら歩いていた。

2010年3月23日、渡し場の桜が咲いた。彼岸桜の系統か? 染井吉野よりひとあし早く咲く。

3月中旬、矢切の渡しへのプロムナードを彩るユキヤナギ。
遠くに見える黄色はスイセン。今年はバリアフリー工事で
たぶん全滅しただろう。咲かない。

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